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福岡高等裁判所 平成5年(う)395号 判決

本店所在地

北九州市八幡東区山路一丁目一五七六番地の三

共祐産業株式会社

(代表取締役 倉石智)

本籍

福岡県前原市大字前原二八三番地

住居

北九州市小倉北区熊本三丁目一六番一-六一二号

会社役員

倉石智

大正一一年九月一一日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、平成五年一一月二日福岡地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人両名から各控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官飼手義彦出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人両名の弁護人塚田武司、同林桂一郎共同作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。所論は、要するに、被告人両名に対する原判決の量刑はいずれも重すぎて不当である、というのである。

そこで、原審記録を調査して検討するに、本件は、不動産の売買及び仲介等を目的とする被告人共祐産業株式会社(以下「被告会社」という)の代表取締役として同社の業務全般を統括していた被告人倉石智が、被告会社の業務に関し、高額の税金を納付するのを惜しんで法人税を免れようと企て、被告会社のした不動産売買についてダミーを介在させるなどしてその所得を秘匿し、平成元年三月一日から平成二年二月二八日までの事業年度における被告会社の実質所得金額が一億七四八七万六九九六円、課税土地譲渡利益金額が一億一四八三万二〇〇〇円、正規の法人税額が一億〇六八六万四二〇〇円であったのに、所得金額が九二六万九一一八円の欠損、課税土地譲渡利益金額が三一三九万三〇〇〇円、法人税額が九三四万四六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を八幡税務署長に提出し、九七五一万九六〇〇円の法人税を逋脱したという事案であるところ、原判決が「量刑の理由」の項において説示するところは正当である。すなわち、被告人倉石が本件犯行に及ぶに至った動機は、国民の納税義務の重要性を認識しない誠に自己中心的で身勝手なものである上、犯行の態様も巧妙かつ計画的で悪質なこと、しかも、本件犯行による逋脱税額は大きい上、逋脱率も約九一・二六パーセントと高いことなどを併せ考えると、被告人両名の刑事責任を軽視することはできない。

そうすると、被告人倉石は、今では本件犯行に及んだことを反省している上、被告会社も、国税局から摘発を受けた本件を含む各事業年度の本税等は既に完納していること、また、被告人倉石は既に高齢である上、狭心症等の持病があってその健康状態は必ずしも良くないこと、原審において、被告人倉石智の実兄が同被告人のために情状証人として出廷していること、その他本件に表れた諸般の事情を被告人両名のために十分斟酌し、他の類似事案に対する量刑の傾向に照らしても、被告会社を罰金二五〇〇万円、被告人倉石を懲役一年六月、三年間刑執行猶予に処した原判決の量刑はやむを得ないところであって、これらが重すぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田憲義 裁判官 濱崎裕 裁判官 川口宰護)

平成五年(う)第三九五号法人税法違反被告事件

控訴趣意書

被告人 共祐産業株式会社

代表者 倉石智

被告人 倉石智

右被告人両名に対する標記被告事件についての控訴の趣意は左記のとおりである。

平成六年二月四日

弁護士 塚田武司

同 林桂一郎

福岡高等裁判所第二刑事部 御中

第一点 量刑不当の主張

原判決は原判示事実を認定したうえ、被告人共祐産業株式会社を罰金二五〇〇万円に、被告人倉石智を懲役一年六月、刑の執行猶予を三年とする判決をそれぞれ言渡したが、右の量刑はいずれも重きに過ぎるものである。

(被告人共祐産業株式会社について)

被告人会社は不動産の売買及び仲介等を目的とする株式会社であるが、原判決は、平成元年三月一日から同二年二月二八日までの事業年度のほ脱税額九七五一万九六〇〇円について二五〇〇万円の罰金刑に処した。その割合は二割五分六厘もの高率である。これに加えて被告会社はすでに国税局等に同年度分として約一億五〇〇〇万円もの追徴税を完納しているのであるから、これに右罰金刑を支払うとなると手厳しすぎる経済的制裁である。

右二五〇〇万円の罰金刑は不当に重い科刑である。

(被告人倉石智について)

原判決は、被告人倉石智に対し、検察官の求刑どおり懲役一年六月の刑に処し、三年間右刑の執行を猶予する判決を言渡した。

しかし、原審の弁論要旨で指摘しているとおり、被告人倉石智には再犯のおそれがないこと、七一歳の高齢のうえ多々健康上の不安を抱えていること、余生を平穏に過ごしたいなどを考えると刑の拘束からできるだけ早期に解放すべきものである。

したがって、原判決の被告人倉石智に対する量刑は重過ぎるものである。

以上のとおり、被告会社及び被告人倉石智に対する原判決の量刑はいずれも重きに過ぎるものであるから、これを破棄のうえ寛大な刑に処せられるよう希望するものである。

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